重粒子線治療とは何か

重粒子線治療を受ける前に知っておきたい基礎知識

放射線治療の1つで炭素イオン線を使う治療法

 重粒子線治療は放射線治療の一種です。現在、がんの治療などに使われている放射線は、「光子線」と「粒子線」に分けることができます。光子線には、一般的な放射線治療で使われているエックス線やガンマ線が含まれます。一方、粒子線に含まれるのが、重粒子線と陽子線です。
 光子線は簡単に表現すれば光の波です。これに対し粒子線は、炭素や水素などの原子核を、加速することで得られる放射線です。
 重粒子線治療には、炭素イオン線が使われています。炭素イオン線とは、炭素原子から電子を取り除いたもの。この粒子を、巨大な加速器を使って、光速の6~8割以上まで加速します。そして、それを体に照射するのです。
 粒子線は、炭素イオン線に限らず、さまざまな原子のイオンを使ってつくり出すことができます。その中で、ヘリウムイオンより重いイオンでつくられた粒子線が、重粒子線と呼ばれています。つまり、重粒子線にもいろいろな種類があるのですが、その中で最も治療に適している炭素イオン線が、重粒子線治療に使われているのです。

体の奥まで届き大きな破壊力を発揮

 重粒子線や陽子線などによる粒子線治療は、光子線治療にはない優れた特徴を持っています。それが「ブラッグピーク」と呼ばれる現象です。
 エックス線やガンマ線は、体に照射すると、体の中を透過していきます。そのとき、照射した部分の表面直下で最も線量が多くなり、体の奥に行くに従って、線量が少なくなっていきます。これに対し、粒子線の場合は、ある特定の深さで線量が最大になり、その後ろには行きません。このピークにがんが来るようにして、がんを治療するのです(図1)。

図1 重粒子線(炭素イオン線)とX線などとの線量分布の違い(兵庫県立粒子線医療センター パンフレットより)
X線、ガンマ線、速中性子線で病巣に身体の外から照射治療を行うと、図のように身体表面に近いところに多くの放射線が照射され、病巣に届くまでに減弱する。これに対し粒子線は、ある深さにおいて放射線量がピークになる特性(ブラッグ・ピーク)を持つ。また、がん病巣より深いところには達しないので、がん病巣の後方の正常な組織には照射されない。


 粒子線は、体の奥のある部分に線量を集中させることを得意としています。そのため、体の中を通過するエックス線やガンマ線による治療に比べ、周囲の正常組織に及ぼす影響を小さくすることができます(図2)。これが粒子線治療の最大の特徴なのです。


図2 粒子線による治療
(兵庫県立粒子線医療センターパンフレットより)


図2 X線による治療
(兵庫県立粒子線医療センターパンフレットより)

 さらに、重粒子線は、炭素イオンという重い粒子を使うため、細胞を破壊する力が非常に強いのが特徴です。エックス線などによる通常の放射線治療や、陽子線治療に比べ、2~3倍の破壊力があると言われています。
 このように、重粒子線には非常に優れた性質があるのですが、重い粒子を加速するため、その装置は非常に大きくなります。放射線医学総合研究所の治療装置の場合、中心となる加速器は直径が約40ⅿもあります。群馬大学重粒子線医学センターや九州国際重粒子線がん治療センターでは、小型化された装置が導入されています。
 また、照射する方向は、水平方向と垂直方向などに限られます。体に対して斜め方向から照射する場合には、体を斜めに固定して照射する方法がとられています。

多くのがんが対象となり優れた局所制御率を示す

 重粒子線治療は、前立腺がん、骨軟部腫瘍、頭頸部がん、肺がん、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮がん、直腸がんなど多くのがん種に対して行われ、効果が期待されると言われています。ただし、局所の治療ですから、すでに他の部位に転移している場合は治療の対象となりません。
 治療の流れは、図3に示したとおりです。1回に照射する線量や照射回数は、がんの種類によって異なります。

図3 重粒子線治療の流れ(放射線医学総合研究所のパンフレット「重粒子線がん治療について知りたい方のために」を参考に編集部にて作図)

 治療成績もがんの種類によってさまざまですが、局所のがんを死滅させたことを示す「局所制御率」が優れているのが特徴です。
 副作用は、照射中あるいは照射後の早い時期に現れる「早期反応」と、それ以降に現れてくる「遅発性反応」とがあります。
 重粒子線治療で早期反応が現れることがありますが、これは問題なく回復します。特に注意が必要なのは遅発性反応で、消化管に高い線量が照射されてしまうと、孔があくようなことも起こります。こうした副作用に十分注意して、治療が進められます。
 費用は314万円です。

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