群馬大学重粒子線医学研究センター

日本で唯一の、大学病院に併設された〝普及型〟重粒子線治療施設
治療技術の向上と専門家の育成で、日本の放射線治療の発展に貢献


取材協力● 群馬大学重粒子線医学センター
写真提供● 群馬大学医学部附属病院
取材・文●編集部 撮影● 関 朝之



 群馬県前橋市昭和町3丁目の群馬大学医学部昭和キャンパス内に建つ群馬大学重粒子線医学研究センター―。
 がんを切らずに治す最先端技術「重粒子線治療」を行う医療施設として建設着工されたのは2007(平成19)年2月17日だった。総工費約125億円をかけて群馬大学と県、地元市町村の共同事業として設置された。



 
待合室と開放的なロビー



 炭素イオン線(重粒子線)を超高速に加速して体内に照射し、がん細胞を殺傷する。副作用が少なく、治療期間は最短1日。重粒子線治療施設としては千葉県の放射線医学総合研究所(放医研)、兵庫県立粒子線医療センターに次ぐ国内3例目の施設で、前二者と大きく違うところは、従来の装置に比べ3分の1に小型化・低コスト化された最新型の加速照射装置であること。この小型化された普及型の装置で治療が開始されたのは2010年3月であった。


中野隆史群馬大学重粒子線医学研究センター長




照射装置の心臓部・シンクロトロン加速器。
重粒子線(炭素イオン線)を一定の円軌道上で周回転させる装置
(写真提供:群馬大学医学部附属病院。以下同)




炭素イオンを取り出すイオン源装置。
この装置で、化学物質の中の炭素原子から炭素イオンがつくられる




線型加速器。
炭素イオンを主加速器であるシンクロトロンに送り込む前に予備的な加速を行う。
送られた炭素イオンは、シンクロトロンの中を旋回している間に光速の約70%まで加速される

群馬の地から、世界の医療地図を書き換える研究に挑む

 普及型の重粒子線装置による初めての治療は、前立腺がんの患者さんを対象に行われた。前立腺がん10例に対し治療が終了した時点で、厚生労働省に「先進医療」としての申請をし、2010年6月に承認されている。前立腺がんの治療を試験的に先行させたのは、装置の不具合で治療が遅れることになっても、薬物療法でがんの進行を抑えられるなどリスクが小さくてすむからだという。
 2010年3月から2013年3月までに同センターで治療した患者さんは621例。内訳は、前立腺がんが圧倒的に多く(71・5%)、次いで肺がん(6・8%)・頭頸部腫瘍(6・8%)、肝臓がん(5・9%)、骨軟部腫瘍(4・7%)、直腸がん(2・3%)、孤発性リンパ節転移(1・8%)、小児悪性腫瘍(0・3%)の順となっている。
 将来的には年間600名の患者さんを治療することを目標にしているという。治療を受けた患者さんは県内(195)のみならず、埼玉(44)、長野(19)、栃木(23)、東京(8)、神奈川(4)、新潟(4)、茨城(3)、その他(6)となっている(カッコ内の数字は2012年3月末までの患者数)。


患者さんが動かないように固定具を装着する


治療室。
加速された炭素イオンはこの治療室で患者さんに照射される。
重粒子線照射中に痛みはまったくない

 重粒子線医学研究センター長として同施設を率いるのは、群馬大学医学系研究科腫瘍放射線学分野の中野隆史教授である。教室に所属するメンバーは普段、放射線治療医として患者さんの診察に当たっている。中野センター長は国際原子力機関(IAEA)医療分野のアジア地域代表を務めており、海外の大学や研究機関との交流も活発に行っている。
 「群馬大学は放射線によるがん治療の歴史が長く、日本の放射線治療専門医の約1割を輩出しています。重粒子線治療は、放医研の治療経験をもとに、肺がん、頭頸部腫瘍、頭蓋底腫瘍、肝臓がん、前立腺がん、骨肉腫、軟部腫瘍など、手術が適応となりにくいがんや一般の放射線治療でも治療困難ながんを初期の治療適応としてプロトコール(治療計画)を作成し、臨床試験を開始しました」(中野センター長)


群馬大学医学部附属病院は、従来の放射線治療に「重粒子線照射施設」という
世界最高水準の施設が加わったことで、日本の放射線治療の拠点となった(撮影:関朝之)


 導入した普及型の小型重粒子線治療装置は、放医研で開発された炭素イオンによる重粒子線治療装置を基本仕様にしているという。
 「そこに炭素イオンマイクロサージェリー治療開発ポートを大学独自のオプションとして搭載し、臨床仕様に研究開発部門を付加した装置にしました」
 同センターには、研究開発のための第4照射室が設置されている。炭素イオンの側方散乱の少ないシャープな直進性を利用した、群馬大学が推進している、ミリオーダーのビームスポットにより高精度の空間位置精度で病巣を制御する治療技術も開発している。
 「群馬大学重粒子線医学研究センターならびに腫瘍放射線学教室は、世界最先端の低侵襲治療法を創出することを目標とする一方で、群馬県を中心とする地域医療圏において重粒子線治療を中核的最先端がん治療技術と位置づけ、増加し続けるがん患者さんに最適な治療法を提供し、県民および国民福祉に貢献したいと考えています」
 その一環として放射線治療専門医の人材育成にも力を注いでいるという。

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