陽子線治療とは何か

陽子線治療を受ける前に知っておきたい基礎知識

重粒子線と同じ粒子線だが陽子を加速して発生させる

 陽子線治療は放射線治療の一種です。治療に使われる放射線は、通常の放射線治療に使われるエックス線やガンマ線などの「光子線」と、陽子線や重粒子線の「粒子線」に分類されています。光子線は、簡単に表現すれば光の波です。これに対し粒子線は、水素や炭素の原子核を、光速近くまで加速することで得られる放射線です。
 陽子線治療には、水素イオンが使われています。水素イオンとは、水素原子から電子を取り除いたもの。この粒子は「陽子」と呼ばれるため、水素イオン線は陽子線と呼ばれています。
 この陽子線を患者さんの体に照射し、がん細胞を死滅させるのが陽子線治療です。

がんに放射線を集中させ周囲への影響を抑える

 陽子線や重粒子線などを照射すると、体のある深さで線量が最大になります。線量がピークになる部分は、この現象を発見した学者の名前をとって、ブラッグピークと呼ばれています(図1)。

図1 陽子線とX線の線量分布の違い(福井県立病院陽子線治療センターパンフレットより)
陽子線はある深さにおいて放射線量がピークになる特性(ブラッグ・ピーク)を持っており、エネルギー量などの調節により、このピークをがん病巣に合わせることができる。また、がん病巣より深いところには達しないので、がん病巣より後方の正常組織には照射されない。そのため、正常組織にはより少ない線量を、がん病巣にはより多い線量を与えることができ、治療成績の向上と副作用の軽減を図ることができる。

 エックス線やガンマ線は、照射された皮膚の部分で線量が最大となり、体の深い部分へ行くほど線量が徐々に低下していきます。体内での線量分布がまったく違っているのです。
 陽子線も重粒子線も、ブラッグピークに達した後、その先にはほとんど届きません。この性質によって、正常組織への影響を最小限に抑えた治療が可能になります。通常の放射線治療では、がんの後ろ側まで放射線が透過するため、近くにある臓器にも影響が及んでしまいます。ところが陽子線治療では、がんの後ろ側に重要な臓器があっても、それを障害することなく治療が行えるのです。 実際の治療では、ブラッグピークをがんのある深さに合わせ、がんに最大の線量を集中させます。
 陽子線治療では、2014年1月に名古屋陽子線治療センターが日本初の「スポットスキャニング照射」による治療を開始し、また3月からは、福井県立病院陽子線がん治療センターが「積層原体照射システム」による治療を開始しました。
 積層原体照射とは、その名のとおり陽子線をいくつもの層に分けて照射を行う方法です(図2)。この照射方法により、がん病巣周囲の正常細胞への放射線の影響をより少なく抑えることができるようになりました。さらに、複雑な形状をしたがんの治療も高い精度で行うことも可能になったようです。


図2 積層原体照射
(福井県立病院陽子線治療センターパンフレットより) 


 陽子線と重粒子線を比較すると、細胞を破壊する力がより強いのは重粒子線のほうです。重粒子線治療では、陽子より重い炭素イオンが使われるためです。
 陽子線の細胞を破壊する作用は、エックス線やガンマ線とあまり変わりません。ただ、陽子線はがんに線量を集中させやすいことによって、優れた治療効果が期待できるのです。
 陽子線を発生させるためには、大きな機械が必要になります。中心となる加速器の直径は4~11ⅿほどです。医療機器としてはきわめて大きいものですが、重粒子線を発生させる装置ほど大きくはありません。
 また、重粒子線は照射角度が限られていますが、陽子線はどの角度からでも照射することができます。これも重粒子線治療と異なっている点です。

治療の対象となるのは病巣の位置が明確ながん

 陽子線治療の対象となるのは、ある部分に限局しているがんで、基本的には他の部位に転移していないことが条件になります。また、白血病のような血液のがんも対象になりません。
 比較的よく治療が行われているのは、頭頸部がん、脳腫瘍、肺がん、肝臓がん、前立腺がん、骨軟部肉腫などです。また、肝臓や肺の転移性腫瘍(他の臓器から転移してきたがん)も治療対象になっています。
 治療の流れは、図3に示したとおりです。1回に照射する線量や照射回数は、がんの種類などによって異なります。


図3

 治療成績はがんの種類によってさまざまですが、優れた治療成績が認められ、先進医療として行われています。特に高齢などの理由で手術が受けられない場合や、手術すると機能や形態が損なわれるような場合には、陽子線治療が有力な選択肢の1つになります。
 副作用は皮膚や粘膜の炎症など、早期に現れるものがほとんどです。これは一時的なものですぐに回復します。正常組織に一定以上の線量が照射されれば、深刻な副作用が生じる可能性があります。こうしたことが起きないように、慎重に治療が進められています。
 治療費は施設によって多少の違いはあるようですが、たとえば国立がん研究センター東病院の場合、288万3000円となっています。

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