筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センター

日本で初めて大学病院に併設された陽子線治療施設
患者さんの体と心をよく診て最適な治療法を提供する


取材協力・写真提供● 筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センター
取材・文●編集部



 2014年3月現在、日本で陽子線治療や重粒子線治療を実施している医療機関は12施設あり、うち陽子線治療を実施しているのは8施設である。茨城県つくば市天久保にある筑波大学附属病院陽子線医学利用研究センターは、陽子線治療においては国内で初めて大学病院に併設された治療施設だ。
 筑波大学は、日本で最も早い時期に陽子線治療の本格的な臨床研究を開始したことでも知られる。1983年のことであり、世界の陽子線治療施設に先駆けて肝臓がんなどの深部臓器がんに対する治療を行い、その実績は世界的にも高い評価を受けている。2008(平成20)年8月には、厚労省から「先進医療」としての承認を得た。
 同施設で指揮をとっているのは、筑波大学医学医療系放射線腫瘍学教授の櫻井英幸センター長である。


櫻井英幸センター長(編集部撮影)




シンクロトロン。
陽子を一定の円軌道上で周回転させて光速の約60%にまで加速する直径約7mの装置
(写真提供:陽子線医学利用研究センター。以下同)




陽子ライナック。水素ガスから電子を剥ぎ取り陽子をつくり出す。
その陽子を加速してシンクロトロン(上の写真)という加速器に送り出す役目をする。




ビーム輸送ライン。
陽子線を運ぶ輸送ライン。管の中を真空状態に保ち、陽子線を輸送する。
磁石の力を使って回転ガントリーへ陽子線を運ぶ




回転ガントリー。
高さ約10m、重さ200t以上もあるドラム状の装置。内側に照射口があり、
ガントリーを回転させることで照射口が治療ベッドの周りを360度回転する




治療中の様子

科学的な診療を推進するだけでなく、患者さんの気持ちを大切にする診療を

 取材のため陽子線医学利用研究センターを訪ねたのは2012年11月26日(月)、小雨の煙る日であった。JR秋葉原駅からつくばエクスプレスに乗り約45分で終点「つくば駅」に着く。
 都心では考えられないほど広々とした学園西大通りをタクシーを走らせ10分ほどで筑波大学附属病院に到着。同病院は1976(昭和51)年に開院し36の診療グループを有する総合病院である。高度な手術や、先進医療などを行うことのできる「特定機能病院」として国の承認を受けている。がん治療をはじめ、その他の生活習慣病、循環器疾患、難病、小児医療や周産期医療の拠点としての役割も果たしている。2012年12月には新病棟が完成し、26日に開所した。
陽子線医学利用研究センターは、病院の裏手に建っている。施設の特徴について、櫻井センター長はこう話す。
 「筑波大学は早くより陽子線治療の研究を始めており、国内で最も長い歴史を持っています。大学病院に併設されていることから、さまざまな分野の専門医や医療スタッフが揃い、協同して治療に取り組めるところが当センターの強みです。また、他科との合同カンファレンスが週に10回以上あり、密接な連携体制を整えているところも当施設の強みです」
 附属病院とともに施設スタッフのモットーとするところは、「患者さんの体と心をよく診て、最適な治療法を提供すること」であるという。



陽子線医学利用研究センターでは他科との合同カンファレンスが週に8回以上行われ、
密接な連携体制をとって治療にあたっている




筑波大学で開発された「呼吸同期照射法」
肝臓や肺は、呼吸によって数センチの変動が生じる。呼吸運動の影響を受けず、
毎回同じ位置に照射するために開発された方法が呼吸同期照射法である。
現在では世界的にスタンダードな照射法となった

「言うまでもないことですが、がんを放射線で上手に治すために重要なことは、新しい医療機器をたくさん揃えることではありません。大切なのは、われわれ医療に携わる者が個々のがんの性質をよく知っていることであり、患者さんの体と心をよく診て、最適な治療法を提供することです」
では、最適な治療法とは何か―。
 「がんは、同じ病名がついても最適な治療法は同じではなく、患者さんそれぞれによって違います。また、たとえがんを治したとしても、患者さんに大きな障害を残してしまっては、良い治療とは言えません。その意味で当センターでは、科学的な診療を推進するだけでなく、患者さんの気持ちを大切にした診療をスタッフ全員で心がけています」
 前にも述べたように、筑波大学で陽子線治療の本格的な臨床研究が開始されたのは1983年である。同年より2000年までの17年間に、現在の高エネルギー加速器研究機構の加速器を使用して治療した患者さんは約700名であった。その後、2001年9月に医療専用の新陽子線治療施設が稼働。「合計4000名近い患者さんを治療した」という。

1983年〜2014年3月までに、筑波大学附属病院陽子線医学利用研究センターにおいて行われた疾患別治療実績。最も多い疾患は肝臓がんで、全体の約3分の1を占める。次いで、肺がん、前立腺がん、転移性腫瘍と続く

 治療にあたった患者さんで最も多い疾患は肝臓がんで、全体の約3分の1を占める。同センターの最も得意とする疾患だ。進行肝がんの患者さんなど治療後の経過が良く、成果を上げている。肝がんに次いで治療数の多いのは肺がん、前立腺がん、そして転移性腫瘍と続く。最近では、小児がんの治療にも「確かな手応えを感じている」と櫻井センター長は言う。

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資料提供:日本ホスピス緩和ケア協会 http://www.hpcj.org/list/relist.html

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先進医療を実施している医療機関の一覧表

(出所:厚生労働省ホームページより「がん医療」関連に限定して転載)

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