シリーズ 先端医療 ―樹状細胞療法― ⑭

難治がん・転移がんの集中治療・往診治療
正常細胞を元気にすればがんは克服できる


星野泰三
東京・大阪・京都統合医療ビレッジグループ 理事長・プルミエールクリニック院長

 当院を受診される患者さんの8割以上が進行性・難治性のがんを抱え、他の病院において余命を宣告されたり、緩和ケアを勧められたりした方々です。それでも、免疫細胞治療が奏功し、がんを克服した症例は、本稿巻末の表にまとめた以外にも多々あります。
 そのなかには、私たちが患者さんのご自宅まで行って治療を行ったケースも少なくありません。こうした往診による治療も、遠隔地の患者さんには有意義なものだと自負しております。いずれにしても、免疫細胞治療が奏功した大きな要因は、そのキーマンである樹状細胞を用いたことです。
 従来は、がん治療のキーワードと言えば「がん細胞を叩く」「免疫力を上げる」……といったものでした。もちろん、それは普遍的なものですが、今回は「健康論」としてではなく「抗がん理論」として、「正常細胞が元気であることががんの治療・予防を行ううえでいかに重要なのか」というテーマで述べさせていただきます。

正常細胞とがんの戦い

 私たちの体内において、正常細胞ががん細胞を取り囲むと、マイナスのシグナル、いわゆるがんを抑える信号を発します。すると、がんはアポトーシス(プログラムされた細胞死)を起こします。
 なぜ、正常細胞に取り囲まれたがん細胞がアポトーシスを起こすのかという機序は、現在、研究段階ではありますが、その結果論だけはすでに明確です。
 それと、アポトーシスを起こしたがん細胞は、その後、排除されていきます。なぜ排除されるのかといった点についても明確な答えは見つかっていません。現段階で言えるのは、がんを抑える信号を発したり、アポトーシスを起こしたがん細胞を排除したりするのは、樹状細胞などの免疫系が何らかの役割を果たしていると推察できる、ということです。
 こうした働きを担っているとされる樹状細胞を元気にするには、食事療法を取り入れることが大切です。要はアルカリ性の体質・体内環境をつくることが重要なのです。その他、体の代謝を活発にする、体を温めるといったことをすれば、樹状細胞をはじめとする免疫系の細胞が活性化されます。そして、がんが自然に排除されるというのが、一般的な自然療法・代替療法の考え方です。
 まさに、この考え方は、最先端のトピックスです。さらに先述の「正常細胞ががん細胞を取り囲むと、マイナスのシグナルを発し、がんにアポトーシスを起こさせることに免疫系が関与している」ということが解明されれば、食事療法を取り入れる、体の代謝を活発にする、体を温めるといったことが、単なる「健康論」に留まることなく、「抗がん理論」へと昇華するのではないかと考えています。
 また、がん細胞ががん細胞に取り囲まれると、がん細胞が正常細胞に取り囲まれたのとは反対に、プラスのシグナルを発します。すると、がんが排除されるどころか、がん細胞の〝親玉〟であるがん幹細胞は増殖・転移していくのです。たとえるなら、悪人同士が集まればより悪行を働くようになり、悪人の周囲に善人が集まれば悪人は悪行を働きにくくなる、ということです。
 酸性の体質・体内環境、ストレスなどが体の代謝を鈍化させ、また冷えや浮腫などがそれを助長します。すると、逆に、がん細胞を取り囲むはずの正常細胞が排除されてしまうのです。
 人間の体内では、日々、何百・何千ものがんができているとされています。それを排除するメカニズムが人間には備わっています。ですから、がんに対する免疫細胞治療や食事療法を行う際はもちろん、がんを予防するうえでも、正常細胞が元気であったほうがいいのです。
 以上のことから言えるのは、がんに対しては、正常細胞の元気を失わない治療が大切だということです(図1)。



図1 がんを抑えるシグナル、増殖するシグナル

支配するストローマ

 正常細胞のストローマ(間質)はがん化を防止します。それに対し、がん細胞のストローマはがん化を促進します。同じストローマであっても、正常細胞のものとがん細胞のものとでは、その役割がまったく異なっているのです。
 ストローマの中は、細胞外マトリックスや繊維芽細胞・免疫細胞などのストローマ細胞で構成されています。ストローマ中の繊維芽細胞は、コラーゲンやフィブロネクチン(糖タンパク質)といった細胞外マトリックスタンパク質、およびサイトカインや増殖因子、タンパク質分解酵素などの分子を分泌・発現しています。こうして、ストローマの環境に多大な影響を及ぼしているのです。
 また、ヒトのがんの80%以上は、胃や肺、大腸、乳腺などの上皮組織の上皮細胞から生じます。その細胞に変異が蓄積されると基底膜下のストローマの性質が変わり、それが上皮細胞のがん化を促進します。さらに、変異細胞を取り巻く正常な上皮細胞が変異細胞の細胞死などを起こすことも解明されてきました。いずれにしても、がん細胞とその周囲を取り巻くストローマとは相互作用があるのです。
 がん化を促進するストローマは「悪性ストローマ」と言います。それに対し、がん化を防止するストローマは「正常ストローマ」と呼ばれています。前者の悪性ストローマは、抗がん剤の耐性や免疫耐性を起こしてきます。
 つまり、がんができると、正常ストローマが悪性ストローマになり、その悪性ストローマががん細胞を増加させ、抗がん剤や免疫細胞治療の〝抵抗勢力〟になっていく、という悪循環が起こるのです。
 こうしたがん細胞を取り巻くストローマの変化は、「がん微小環境」と言われ、現在、がん治療の領域において大きな注目を集めているのです(図2)。


図2 がん微小環境の悪循環

キーマン〝樹状〟を元気に!

 がん細胞にしても、正常細胞にしても、それぞれの周囲にストローマがあります。そして、その双方にシグナルがあり、それによってがん細胞を排除、あるいは増殖するのです。
 そのシグナルを感知するのは樹状細胞です。その樹状細胞をアルカリ性の環境下に置いて元気な状態にしておけば、正常細胞が発するシグナルを感知し、がんを排除します。逆に、酸性の環境下にある樹状細胞は、悪いシグナルを感知してがんを増殖させます。
 昨今、樹状細胞は、がん治療のキーマンであるとされています。2011年には、米国ロックフェラー大学教授のラルフ・スタインマン氏が、「樹状細胞と獲得免疫におけるその役割の発見」が評価され、ノーベル医学・生理学賞を受賞し、〝樹状〟ががん治療のキーマンであることとされる追い風となりました。
 いずれにしても、樹状細胞をアルカリ性の環境下に置き、元気な状態を保つことが大切なのです。

正常細胞を失わない治療

 先述のように、正常細胞が元気であれば、ある程度、がんの発症を抑制することがわかってきました。そこで、昨今、がん治療の1つの潮流として注目されているのが「正常細胞を失わない治療」です。
 がん3大治療のなかの1つである抗がん剤治療は、「正常細胞を失わない」という点では良策だと言えません。分子標的薬を用いた治療であれば、従来の抗がん剤よりも正常細胞を失わないですみます。さらに、免疫細胞治療であれば、正常細胞を失うどころか、元気にします。つまり、「正常細胞を失わないがん治療」という点においては、抗がん剤は「×」、分子標的薬は「△」、免疫細胞治療は「○」と表すことができるのではないでしょうか。近年、抗がん剤のやり過ぎには注意すべきであるという警鐘が鳴らされているのは、このような理由があるからです。
 当院では、正常細胞を失わないがん治療の1つとして、ペプチドワクチン・樹状細胞治療を実施しています。
 がん患者さんの免疫状態の回復・増強には、キラーT細胞(CTL)やNK(ナチュラルキラー)細胞などの活性が不可欠です。これら免疫細胞の活性には樹状細胞が大きく関わっているのです。
 樹状細胞は、体内で異質な細胞を捕食することで、がんの特長(抗原)を認識し、攻撃部隊のリンパ球に情報を伝える役目(抗原提示)を担っています。したがって、樹状細胞の培養中にペプチドを取り込んで抗原として覚え込ませれば、CTLを誘導してがん細胞を選択的に攻撃することが可能になるのです。
 従来、「免疫力の強化」という点では、NK細胞で直にがんを攻撃する研究が主流でした。しかし、近年は、ペプチドワクチンを入れた樹状細胞による「免疫力の強化」が最新の研究とされています。
 この〝ペプチドワクチン・樹状細胞〟を用いた治療は、がんを治す、あるいは長期間の延命に繋げるものであることがわかってきており、がん3大治療によって免疫力が低下した際の感染症予防はもちろん、がんを叩くためにも必要とされてきています。
 また、一般的に抗がん剤治療には著効期があるものの、開始から約3カ月後には耐性獲得期が心配されます。耐性を獲得してしまった抗がん剤の効果は乏しくなり、やがてほとんど効かなくなってしまいます。それに、元々、抗がん剤の効果が期待できないがん種も存在します。このように抗がん剤が効かなくなった、あるいは効かないケースでも、ペプチドワクチン・樹状細胞を用いた治療に代表される免疫細胞治療は効果が期待できるのです。
 こうした体にやさしい治療法で正常細胞を元気にすれば、がんを克服する期待は高まるはずです。

(2014年7月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.14より)

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