シリーズ 治療効果をプラスする「最新のがん治療」

~さまざまながん種に対する免疫細胞療法の効果~
第11回 胆管がん


加藤洋一
新横浜かとうクリニック院長

 新横浜かとうクリニックでは、通院抗がん剤治療や免疫細胞療法、温熱治療、がん遺伝子検査などを駆使し、がん患者さんへの治療を行っている。その治療のコンセプトは「治療効果をプラスする治療法がある」。つまり、標準治療に他の治療をプラスし、少なくとも生存率を70~80%まで引き上げることを目指しているのである。その切り札の1つである免疫細胞療法として、樹状細胞がんワクチン(樹状細胞ワクチン療法)、活性化リンパ球療法、WT1 CTL療法などを実践している。
 本連載では、これらの免疫細胞療法がそれぞれのがん種にどのような効果をもたらしたのか、というがん種別の症例を治療方針と共に紹介している。第11回は、難治性がんの1つに挙げられる胆管がんを取り上げた。

胆管がんの標準治療

 当クリニックでは、これまで400人以上のがん患者さんに対し、免疫細胞療法を行ってきた。今回、取り上げた胆管がんは、当クリニックにおいて、大腸がん・膵がん・胃がん・肺がん・乳がんなどと比べ、それほど症例が多いがん種ではない。それでも、開院から5年の間に、8人の胆管がんの患者さんが来院している。
 胆管は肝臓でつくられた胆汁を十二指腸へ流す導管である。その始まりは肝臓内の細い枝で、次第に合流して左肝管・右肝管という2本の太い管になる。そして、肝門部で1本に合流して総肝管・総胆管となり、膵臓を貫いて大十二指腸乳頭部で開口する。このように胆汁を移送する胆管、その途中で胆汁を一時的に貯留しておく胆嚢、十二指腸への流出口である大十二指腸乳頭部を総じて「胆道」と称している。
 胆道には、肝臓の中を走行する「肝内胆管」と、肝臓の外に出てから十二指腸までの「肝外胆管」が含まれるが、国内の取扱い規定では、肝内胆管がんは原発性肝がんに分類される。そのため肝外胆管より発生したがんを胆道がんとしている。このうち胆管にできたがんを胆管がん、胆嚢にできたがんを胆嚢がん、十二指腸乳頭部にできたがんを乳頭部がんと呼んで分けている。
 今回のテーマである胆管がんは、粘膜面から見た病変の高低により乳頭型・結節型・平坦型に、壁内浸潤様式によって膨張型と浸潤型に分類することができる。
 肝門部(胆管や血管が肝臓に出入りする場所)にできる肝門部胆管がんでは、その浸潤型の中–低分化腺がんが多く、神経周囲浸潤や脈管浸潤を伴い浸潤性に発育する。ただし、黄疸という特異的症状が早い段階で発現するので、診断時に遠隔転移を伴うことは少ないとされている。そのような早期で見つかれば、根治切除が可能な場合も多い。その一方で、下部胆管がん・乳頭部がんでは、限局型の高–中分化腺がんが多いのが特徴である。
 胆管がんの診断としては、黄疸が現れたときはもちろん、無黄疸であっても、胆道系酵素、CA19–9(膵臓がん・胆嚢がん・胆管がんなどの消化器系のがんに侵されたとき、血清中に著しく増加する物質)、CEA(消化器系がんの腫瘍マーカー)などが高値の場合、超音波によって肝内胆管の拡張の有無を検査する。
 胆管がんの病期は、Ⅰ期からⅣ期までの4段階で示される。
 Ⅰ期は、がんが胆管の中だけに留まっている段階である。
 Ⅱ期は、がんが胆管と隣り合う臓器に広がっていることが疑われるか、あるいは胆管の近傍のリンパ節に転移している段階である。
 Ⅲ期は、胆管と隣り合う臓器(膵臓・肝臓・十二指腸・胆嚢など)に明らかに直接浸潤して広がっており、その範囲がごく近傍に留まっていると考えられる段階。また、Ⅱ期より遠くのリンパ節に転移している段階である。
 Ⅳ期は、Ⅲ期より遠くまで浸潤が及んでいる、あるいは肝臓へ転移している、また腹部の中にがん細胞がこぼれて広がる腹膜播種がある段階である。
 現在、胆管がんの場合、手術ができない場合や、手術後に再発した場合、抗がん剤治療を行っても満足のいく結果が出ていない。胆管がんに対して最も多く用いられる抗がん剤であるジェムザールでさえも、単独での奏効率(3分の2以下に縮小)は18%で、平均生存期間も7・6カ月という結果である。治療しないという選択では平均生存期間が2・5カ月なので、比較的副作用の軽いジェムザールによる治療を受けることが勧められている。
 また、胆管がんに対するTS–1の奏効率は21%、平均生存期間は8・3カ月とされている。この抗がん剤もジェムザール同様、副作用も比較的軽い。そのため、ジェムザールを1番目、TS–1を2番目に用いることが多い。あるいは、その逆の順番で使うこともよく行われている。
 さらに効果を上げるため、この2種の抗がん剤に加え、分子標的薬を併用するなどの試みが行われている。いずれにしても、副作用と効果の点から十分な理解を得られた治療は試験中といった段階である。

大きな期待を寄せるWT1樹状細胞がんワクチン

 当クリニックで行っている樹状細胞がんワクチンは、がん細胞の抗原情報をがんペプチド(がんの特異的抗原)として認識する樹状細胞を用いた治療法である。樹状細胞は、そのがん情報からがん免疫を起動するのかを判断するといった、がん免疫システムにおいて重要な働きを担っている。
 がんペプチドワクチンは2000年代になり、がん遺伝子から開発された。ペプチドとは「小さなたんぱく質」の意味で、数個から数十個のアミノ酸で構成されている。がんペプチドワクチンを用いた治療法が確立され、従来の非特異的免疫細胞治療から、がん免疫のみを上げる特異的免疫療法が普及してきたと言える。
 その樹状細胞がんワクチンには、WT1、MUC–1、HER2、AFPペプチドワクチン(αフェトプロテイン由来のペプチドワクチン)の4つがある。それらの使用法の用途はがん細胞の形態によって異なり、腺がんには4つのうちのどれかを、扁平上皮がん・小細胞がん・大細胞がんにはWT–1のみを使用している。
 当クリニックにおいて樹状細胞がんワクチンを受ける流れは、まず診察してHLA(ヒト白血球抗原)の検査を行うことからスタートする。この検査結果とがん種などを照合し、がんペプチドワクチンの種類を決定する。基本的にワクチン接種は、2週間に1回ずつ計5回(3カ月間)を1コースとしている。
 そのコース中に、患者さんの免疫反応がしっかりとアップしているのかを調べる。そして、1コースが終了して2カ月以内に、さらにその3カ月後にCT検査を行い、治療効果の評価を行う。ちなみに、治療終了時点でそれほど効果が認められなくても、治療終了から3カ月後に著明な効果が認められるケースも多々ある。
 樹状細胞がんワクチンは、患者さん自身が持っている免疫力をアップさせるので、他の治療法と併用しやすい。とりわけ活性化リンパ球療法との相性は抜群である。
 この活性化リンパ球療法は、患者さんから採取したリンパ球を増強し、約1000倍に増やし体内に戻し、主として患者さんのがん免疫力を上げることでがんを壊す治療法である。
 樹状細胞がんワクチンの効果を高めるポイントは、その培養のために患者さんの体内から血液を採取する時期にある。抗がん剤は白血球を減少・損傷させるので、抗がん剤治療を受けている患者さんであれば、樹状細胞培養のための採血は次回の抗がん剤投与の直前、つまり白血球が最も多くて状態のいいときに行うのがベストなのだ。
 樹状細胞がんワクチン・活性化リンパ球療法とともに、当クリニックの免疫細胞療法の柱となっているWT1 CTL療法は、WT1抗原(小さなたんぱく質のペプチドで、多くのがん細胞が持っている抗原)を認識した活性化リンパ球(WT1特異的Tリンパ球)を用いた治療法である。がんを認識したリンパ球は、通常の活性化リンパ球に比べてがんに結合しやすいので、より高い効果が期待できる。ただし、その患者さんのがんがWT1抗原を持っているか否か、HLA(ヒト白血球抗原)ががんワクチンに結合する型か否かの検査が事前に必要となる。
 さらに、当クリニックでは、WT1ペプチドワクチンに樹状細胞を接触させることでがん情報を記憶させる治療も行うようになった。直にWT1ペプチドワクチンに作用を持たせたWT1樹状細胞がんワクチンは、現在、私が大きな期待を寄せている免疫細胞療法の1つである。

免疫細胞療法による進行性の胆管がんへの奏効例

 当クリニックで免疫細胞療法を受ける患者さんのほとんどが、ステージⅣか再発・転移のがんを抱えていた方々である。それは、胆管がんも例外ではない。そのような進行性の胆管がんの患者さんに対し、当クリニックの免疫細胞療法が奏功したケースのうち、今回は3つの症例をご紹介する。
 1つ目の症例の患者・Aさん(50歳代・男性)は、2009年秋に体調不良にて近所の医療機関を受診した。精密検査の結果、胆管がんが見つかり、大学病院で開腹手術を試みた。しかし、肝臓への転移があり、切除することができなかった。
 そして、2010年2月よりジェムザールを使った抗がん剤治療を開始した。同年5月からはTS–1に替えて抗がん剤治療を続行。12月にはCT検査で多発肝転移の悪化が認められた。そんな状態のなかで、TS–1の服用を継続した。
 Aさんが当クリニックを受診し、樹状細胞がんワクチン(WT1+MUC–1)をスタートさせたのは2011年2月。そして、4月までに5回にわたり樹状細胞がんワクチンを接種しながら、主治医のもとでシスプラチンとジェムザールを併用した。この間、順調にCA19–9やCEA、DUPAN–2(消化器系の腫瘍マーカー)は減少してきた(図1参照)。
 そして、2011年4月から7月にかけては肝転移が画像上、消失した(写真1参照)。


図1

写真1

 2つ目の症例の患者・Bさん(60歳代・男性)は、2012年9月、閉塞性黄疸にて地域の基幹病院を受診した。検査の結果、総胆管がんの診断を受け、傍大動脈リンパ節への転移も認められた。
 翌月、胆管摘出手術とリンパ節郭清を受けた。その後、胆管ステントを挿入。また、シスプラチンとジェムザールを使った抗がん剤治療をスタートさせた。
 そのBさんが、当クリニックを受診したのは2013年3月であった。主治医のもとでドセタキセルとTS–1を併用する抗がん剤治療を受けながら、当クリニックにおいて樹状細胞がんワクチン(WT1+MUC–1)を5月まで5回接種した。この間、4月から抗がん剤治療は中断した。また、順調にCA19–9、CEA、DUPAN–2は減少してきた。そして、当クリニックを受診する前にあった腫瘍が、樹状細胞がんワクチンを終了した時点では画像上、見えなくなった(写真2参照)。


写真2
 3つ目の症例の患者・Cさん(60歳代・男性)は、2013年4月、地域の基幹病院において、胆道がんと鎖骨上リンパ節転移の診断を受けた。その後、ジェムザールを用いた抗がん剤治療(WT1+MUC–1)を4クール行うことになった。

 同年5月、当クリニックを受診。3カ月にわたり、樹状細胞がんワクチンを5回接種した。この間、CA19–9は減少、CEA、DUPAN–2は安定していた。そして、8月の樹状細胞がんワクチンを終了した時点では、画像上、腫瘍が見えなくなった(写真3参照)。


写真3

 このように、当クリニックの免疫細胞療法は、進行性の胆管がん、あるいは胆道がんに対しても奏効の期待が持てる治療法なのだと思っている。つまり、今回、ご紹介したように、標準治療に、がんペプチド樹状細胞療法、あるいは活性化リンパ球療法、WT1 CTL療法などをプラスし、生存率を引き上げたいと考えている。
 先述のように、胆管がんに対する抗がん剤治療は、満足のいかない結果に終わってしまうことが多い。そこで、期待が高まっているのが免疫細胞療法である。
当院と同じ方法の樹状細胞がんワクチンを進行性の胆管がんで使用した、セレンクリニック名古屋院長の小林正学先生の論文が2013年7月に『Journal of Gastro- intestinal Surgery』に掲載された。この論文では、手術できない胆管がんの患者さん65人の平均生存期間は診断を受けてから18・5カ月と、ジェムザールとTS–1の2倍以上の延命効果が報告されていた。
 ただし、奏効率は樹状細胞がんワクチンでは6・5%と、ジェムザールとTS–1より低い結果であった。加えて、栄養状態が悪いと生存期間は有意に短いという。また、樹状細胞にパルスするがんペプチドワクチンはWT1単独、MUC–1単独、WT1・MUC–1併用の3つのなかでは、WT1・MUC–1併用がいちばん長い生存期間となると報告されている。
 現時点で、当クリニックでは開院から500例以上の樹状細胞がんワクチン治療を行ってきたが、今回のテーマである胆管がんは9例と多くはない。それでも、奏効率は33%と、前出の論文より高い(平均生存期間は診断から13カ月)。
 今後も、私は当クリニックを受診された患者さんから、初診時に現在の病状や治療歴などをうかがいながら、それまでの病気に対する治療法のタイミングの良し悪しを判断する所存である。つまり、その状況下における最高のタイミングで治療をスタートさせることを可能にするのだ。
 がんのなかでも、とくに進行がんや再発・転移がんの場合は、治療開始のタイミングが、後々、大きな差となって表れる。「治療を加えるタイミング」を掴むことができれば、それが好結果に結び付く可能性が高い、というのが私の揺るぎない考えである。

(2014年4月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.13より)

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