世界レベルで見たがんと食事の関係
日本の伝統食・和食を基本に〝腹八分目〟な生活を


半田えみ 医療法人社団 中成会 半田醫院

 いろいろな病気に関する栄養療法や食事療法の本が書店にあふれています。もちろんインターネットの普及により、ありとあらゆる情報が簡単に手に入るようになりました。
 情報は正しい場合と間違っている場合とさまざまです。
 がんに関しても同じことで、「〇〇を食べるといいらしい……」「〇〇は食べてはいけない……」など、食事に関することだけでもいろいろと情報に振り回されている方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
 私が数年前に海外で出会ったがんの食事に関する1冊の本があります。この本は、今まで日本国内で出会ったがんに関する栄養や食事について書かれている本と少し違った切り口で書かれた本です。病気と栄養は切り離せないものであります。一番には、病気の発症する前に日々の食事を意識し体でどのように栄養が使われていくのか、そこを知っておくことがとても大切です。
 今回は、皆さまにその本の内容について少しお伝えしたいと思います。

入院と同時に主治医から「禁食」を―。これは正しい「食」のあり方か

 本のお話の前に、ちょっと最近私の周りに起きた出来事を書いてみたいと思います。この出来事はがん患者さんの食事に関することです。
がんの治療をするために入院された方がいらっしゃいます。手術をする予定で入院になりました。検査がいろいろと続き、手術までにはやや時間がありました。がんのできてしまった場所が消化管であるために、最初に口から入れるものについての制限が医師の口から告げられました。入院する前日まではまったく食事制限することなく、食欲もあり普通に食事を摂り生活されていました。口からものが入り、便通もしっかりとついていたとのことです。
 さて、この方、入院と同時にいきなり禁食を宣告されましたが、少しでもいいから点滴ではなく食べ物を口から入れたいと主治医にお願いしたそうです。もちろん、手術直前には点滴治療に変わることは納得されていましたが、手術まで日がある場合は患者さんにとっては点滴だけで暮らすことはさぞかしつらいことでしょう。また、一般的には食べなければ体力がなくなり手術にも戦えないと考えられています。
 私も、いきなりの禁食は本当に必要なものなのかと、少し首をかしげてしまいます。中心静脈から糖質たっぷりのカロリーを中心にあげる点滴がメインであると思われますので、がんにとってエサとなってしまう糖質だけを禁食にしてどんどんと体に入れていくことが果たして第一選択となる食事なのでしょうか。

起こり得る合併症まで考えた、がん患者のための病院食を

 この方の希望があって、消化管に残渣の残らない食事をすることは可能となりました。主治医の意見では、がんによってすでに消化管の通過障害があるため、食事を続けることで腸閉塞を起こしてしまうことが心配されての禁食宣告でした。
 私も、主治医の意見はもちろんごもっともであり、腸閉塞を併発してしまいますと感染症はじめ体にとって良くない状況になることは理解しています。しかし、最終的に禁食は免れたということは、選択肢はあったということで、その後も腸閉塞のトラブルはなく元気にされています。
 ここで、思いだされるのは、以前にも書かせていただいたことですが〝がんの種類ごとの食事〟ということです。日本国内ではまだまだがんはひとくくりにされ、どの部位にできたがんでも病院で提供される食事はみな同じものでしょう。がんの種類ごと、起こり得る合併症までも考えたがんの病院食が本当に必要なのではないでしょうか。
 海外では(私の情報はドイツです)がんの種類ごとに違った食事を提供されているとのことです。手術を待つ患者さんにとっては、病室でのささやかな日々の楽しみは食事でしょうし、また、口から食べ物が食べられ便としてしっかり排泄されるということが、生きている、頑張れるといういちばんのバロメーターになるのではないでしょうか。
 実際に、この方からも「点滴だけつながれて禁食が長く続くということはメンタル的にきついのだよ」とのお話がありました。早く、日本のがん治療の現場でも栄養管理、食事へのきちんとした取り組みが進んで欲しいと願います。

それぞれの地域の食材と、がんの発症率との関係

 さて、私が出会った本の中で、まず面白いと思った1つです。
 その本では、がんと食事の関係を世界レベルで見ているのです。がんという病気を世界規模で見て行きますと風土気候、遺伝、人種、性別、食事など発症においてかなり幅広い差が見られます。しかし、がんも生活習慣病の1つであると考えていきますと、毎日の食生活はどこの地域、どこの国におきましてもかなりがんの発症に影響を及ぼしてくると考えられます。
 この本では、見開きのページいっぱいに世界地図が描かれており、がんが多い国を表示するのではなくがんの少ない国を色付けして表示されています。そして、その国ではどのようなものが日常的に食べられているのかを挙げているのです。  
その国々は、地中海沿岸の国々のヨーロッパと北アフリカと中東、インド、中国と東南アジア、日本です。これらの国々にももちろんがんの方はたくさんいますが、世界中の統計で見ていきますと少ないということです。それぞれの国の、昔からの伝統食と食材に注目しているわけです。
 全体的にがんの少ない国々の食事を見てみますと、共通するところがたくさんあります。それぞれの地域とその食材を挙げてみますので、その食材の持つ効果、作用など見比べてみてください。難しいことではなく、みなさんも普段から耳にしていると思われる効果がこれらの食材の成分にはたくさん含まれています。免疫力アップ、抗酸化、デトックス、整腸作用などの効果ががんの予防や治療に役立ってくれます。
 地中海沿岸のヨーロッパ側:トマト、赤ワイン、にんにく、玉ねぎ、ハーブとスパイス(パセリ、タイム、オレガノ)、豆類、発酵させたミルク、脂肪の多い魚。
 地中海沿岸の北アフリカ、中東側:ハーブとスパイス(ミント、クミン、コリアンダー)、豆類、柑橘系の果物、にんにく、玉ねぎ、トマト、アブラナ科の野菜、発酵させたミルク。
 インド:スパイス(ターメリック、ペッパー、カルダモン)、豆類、にんにく、玉ねぎ、アブラナ科の野菜、発酵させたミルク。
 中国と東南アジア:アブラナ科の野菜、にんにく、大豆、緑色野菜(ホウレンソウ、クレソン)、緑茶、スパイス(クローブ、シナモン)、柑橘系の果物。
 日本:海藻、大豆、緑茶、脂肪の多い魚、キノコ類、豆類、野菜(大根)。
 これらの国々のこれらの食材は、科学的なデータで見ても規則正しく摂取することでがんの発症を低くしていると言っています。

がんの少ない国の1つに日本が挙げられている

 続いて、これらの食材はどんなものであるのか1つずつ解説があり、さらに、がんとどのようにこの食材が関わっていくのかについていろいろとデータなども交えながら書かれています。
 そして、最後にレシピが載っているという構成になっています。レシピに関してはこの本を参考にするというよりは、先ほどのがんの少ない国の1つに私たちの住む日本が挙げられているわけですから、私たちは日本の伝統食を再度見直していくことがどんな栄養本にも勝るのではないでしょうか。
 さらにもう1つ、興味をそそられた部分があります。英語で“HARA HACHI BUN!”と書かれているところがあり、英訳されずそのままの日本語が英語で書かれていました。面白いと思いませんか?
 日本では「腹八分に医者いらず」という言葉が昔からあり、私も幼い頃から食事は「〝腹八分目〟でやめておきなさい」と言われ育ってきました。
 〝腹八分〟は肥満をさけるだけでなく、そのくらいにしておくと胃腸における消化と吸収がうまくいくということでもあります。〝腹八分〟を心がけず暴飲暴食を繰り返せば肥満になります。
 ここで話題にしていることは、肥満とがんの発症ということです。脂肪細胞の塊が体の中で増えていきますと、人間の体の機能に重篤な影響を及ぼします。特に、炎症を起こす因子の前の段階に作用し、あらゆるタイプのがんの成長を促す環境をつくり出してしまいます。
 肥満といいますと糖尿病、心血管疾患などの病気との関係がすぐ浮かびますが、このリスクに肥満が加わりますと、がんを発育させる因子として影響を及ぼすと言われています。アメリカでのデータになりますが、肥満の人はこれらのリスクがそろいますと、大腸がん、胆のうがん、食道がん、腎がんでは、200%から300%発育のリスクが増すとのことです。また、子宮内膜がんにおいては350%以上発育のリスクが増すそうです。
 肥満単独では、男性の全大腸がんの約30%、女性の子宮内膜がんの約60%の原因となっています。複雑なメカニズムによって、肥満が引き金となってがんを発育させることがやっと理解され始めたところです。

1日1食は、純和食の生活を心がける

 私の医院では、がんの栄養療法を積極的に取り入れて行っています。
まずは何と言いましても普段の食生活を改善していただくことです。内容はもちろんのことですが、食事や間食などをする時間帯も大切な要因となります。それに加え、サプリメントや点滴療法を行っていきます。私たち日本人には、一番基本的なことは昔ながらの日本の伝統食、和食を基本に〝腹八分目〟な生活をしていくことが大切ですね。
 私自身、食生活を振り返ってみますと、幼い頃は時代的なこともありますが、コンビニエンスストアやファーストフードのお店が今のように普及もしていませんでしたし、海外の食事を摂ることも少ないものでした。日本の食材が中心の和食生活でした。大人になった今では、海外に出かけていかなくても日本国内で世界中の食事をすることができますし、食材もかなりそろいます。
 私は、和食以外も大変おいしくいただいていますが、1日のうち1食は極力純和食の生活を心がけ軌道修正しています。
 和のもの以外のメニューが多い日でも、1品は和のおかずを盛り込むようにしています。このような形でも体に良い食生活を日々続けることが病気予防につながると考えています。


(2011年10月20日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.3より)

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