シリーズ 先端医療 ―樹状細胞療法― ⑪

難治がん・転移がんの集中治療
免疫リスクを改善すれば〝樹状〟は効く!~がんは免疫リスクを作る〜


星野泰三
東京・大阪・京都統合医療ビレッジグループ 理事長・プルミエールクリニック院長

 免疫細胞治療は著しい進歩を遂げています。その一方で、免疫細胞治療の効果が弱い、あるいはまったく効果がないというケースがあるのも事実です。
 その主な要因の1つとして、免疫抑制細胞による免疫機能の無力化があげられます。がんに罹患してしまうと免疫抑制細胞が異常に増殖するため、患者さん自身が持ち合わせているがんに対する免疫力の働きが低下するだけでなく、樹状細胞やペプチド(アミノ酸からなる人工的に合成したタンパク質の断片)などを用いた免疫細胞治療の作用もブロックされてしまうからなのです。言い換えれば、免疫抑制細胞の「負の働き」を解除すれば、樹状細胞やペプチドを用いた免疫細胞治療は、一挙に効果を高めるということなのです。

「制御性T細胞」という最大のリスク

 がんに対する免疫を低下させてしまう免疫抑制細胞の代表格が制御性T細胞(Treg)です。制御性T細胞は抗腫瘍免疫応答を邪魔することによって、腫瘍増悪、つまり腫瘍を大きくしてしまいます。と同時に、免疫細胞治療の効果を妨げてしまうのです。したがって、制御性T細胞の働きをコントロールすることが、有効な免疫細胞治療の確立には必須なのです。
 免疫抑制細胞は、健康(非がん)な人の体の中にも、一定量存在しています。健康な人にとっては、自己免疫疾患(免疫系が自身の正常な細胞・組織に対して過剰に反応し、攻撃を加えてしまう疾患)にならないようにブレーキの役目を果たしてくれる、プラス面を持ち合わせた細胞なのです。
 しかし、がん患者さんに対しては、マイナス面をもたらしてしまいます。がん患者さんの血液中には、健康な人と比べて制御性T細胞が増えていることがわかっています。しかも、制御性T細胞ががん抗原特異的T細胞の誘導を抑制していることも明らかになっています。それは、ペプチドを使った超特異的リンパ球・樹状細胞の働きを抑制するということです。つまり、制御性T細胞が増えている患者さんに対し、超特異的リンパ球群連射治療や樹状細胞治療を行っても、効果が乏しくなってしまうことを意味しているのです。
 腫瘍局所に集まったたくさんの制御性T細胞は、CTLA–4(免疫反応を抑制する働きを持つT細胞の表面に存在する分子)などによる抗原提示細胞の成熟化を阻害したり、パーフォリン・グランザイムなどの抗がん酵素によるキラーT細胞の破壊を促したりしてしまいます。それほどまでに制御性T細胞は強力な免疫抑制作用を持ち、がん特異的なキラーT細胞の活性を抑制してしまうというわけです。
 先述のように、制御性T細胞は、がん患者さんの血液中で活発に作用しています。さらに、がん患者さんのリンパ節や腫瘍内でも活動的になっています。要は、制御性T細胞は、免疫の〝供給源〟である血液、〝指令所〟であるリンパ節、そして〝最前線〟である腫瘍の中に入り込み、免疫の働きを邪魔しているのです。さらに、腫瘍自体が、制御性T細胞を誘導するのですから、きわめて巧妙な免疫抑制システムが構築されてしまうというわけです。
 制御性T細胞は、がんに近いほど活性しています。しかも、免疫細胞が、その〝最前線〟に辿り着く以前に、リンパ節の制御性T細胞が〝地雷〟の役割を果たし、がん自体に届かない場合もあるのです。

悪性化や予後とも関連している

がん患者さんの2年生存率という観点からすると、その体内にあるリンパ球のなかの制御性T細胞の比率が6%以下であれば80・2%と低リスクだというデータがあります。しかし、それが6~21%になれば60・6%と中リスクになり、21%以上になってしまうと21・3%と高リスクな状態に陥ってしまいます。がん患者さんの生存率と制御性T細胞の数は、明らかに比例しているのです(図1参照)。


図1

 つまり、低リスクの人は、キラーT細胞が攻撃を仕掛ける目印となるがん抗原に向かっていきます。中リスクの人は、血液中やリンパ節、腫瘍内の制御性T細胞がキラーT細胞の攻撃をブロックしようとしています。ですから、キラーT細胞は、直にがん抗原に向かって攻撃できないので、その隙間に割り込むようにして攻めていかくしかないのです。自ずと、低リスクの人に比べ、免疫細胞治療の効果は乏しくなってしまいます。
 そして、高リスクの人ではどうなるのかと言えば、制御性T細胞ががん抗原の前に立ちはだかっているので、キラーT細胞がそこに入り込んでいくのは至難の業です。よって、免疫細胞治療の効果がかなり薄れてしまうのがおわかりいただけると思います(図2参照)。


図2

 もちろん、がんに対する免疫を減弱させてしまうファクター(要因)は他にもあります。それでも、制御性T細胞の作用が免疫細胞治療の効果を乏しくしてしまう大きな要因であることは間違いありません。
 ちなみに、胃がんや食道がん、腎がん、肝がんといった多くのがん種では、血液中や腫瘍の制御性T細胞の増加、および制御性T細胞に対するキラーT細胞の割合の低下は、予後不良因子となることが一般的とされています。
 制御性T細胞の増加の理由として、次のような機序の関与が考えられます。①血液中を循環している制御性T細胞が腫瘍局所へと遊走する。②腫瘍局所の免疫抑制性サイトカインなどが制御性T細胞を誘導する。③腫瘍内で制御性T細胞が増殖する。④制御性T細胞によってキラーT細胞が殺傷される。⑤Fasリガンド(腫瘍壊死因子系に属するサイトカイン)などによってキラーT細胞自身がアポトーシスすることで、制御性T細胞が選択的に残存する。
 このように、制御性T細胞はがんの悪性化や患者さんの予後ときわめて密接な関係があるのです。

免疫リスクは改善できる

 がんは、TGF–β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)を産出し、制御性T細胞を刺激しています。その制御性T細胞は、がんの増殖にも関与していますし、キラーT細胞の働きを邪魔しているのは前記したとおりです。そのような状況に陥っているがん患者さんの制御性T細胞を減少させるには、いくつかの手段があります。
 その1つは、エンドキサン、5–FU、ジェムザールといった抗がん剤の用量と間隔を調節して投与する低用量抗がん剤治療です。
 それと、分子標的薬のイピリムマブは、CTLA–4を標的として攻撃し、免疫細胞のがんに対する攻撃力を回復させます。また、トレメリムマブという分子標的薬も、やはりCTLA–4の阻害薬として知られています。
 抗体薬を使う方法もあります。抗PD–1抗体とPD–L1抗体は、がん細胞の保護膜を破壊し、免疫系の働きを助ける抗体薬です。抗体薬は直に免疫抑制細胞を叩くものではありません。すでに制御性T細胞などの働きによってブレーキがかかっている状態の免疫細胞をそこから解除する作用を持ち合わせているのです。
 抗制御性T細胞ワクチンを用いることも制御性T細胞の減少に有効です。たとえば、抗制御性T細胞ワクチンを使うことで腫瘍中の制御性T細胞が85%も減少したにも関わらず、正常組織においては制御性T細胞の減少が認められなかったという結果が動物実験で出ています。先述のように、制御性T細胞は、アレルギーや炎症を抑制するなど、プラス面を持ち合わせた細胞です。この実験結果からは腫瘍に浸潤した制御性T細胞のみが選択的に除去される理由は明らかになっていませんが、腫瘍の中でのみ制御性T細胞が85%除去できるという方法は、副作用も少ないことから、有益な結果ではないかと思われます。
 また、制御性T細胞を抑制する抗制御性T細胞薬として、ピシバニールが用いられます。ピシバニールによって樹状細胞などの抗原提示細胞が刺激されます。すると、IL(インターロイキン)–12を産生し、制御性T細胞の免疫抑制活性を減弱させることが明らかになっています(図3参照)。


図3

 当院を受診される患者さんの8割以上が進行性・難治性のがんを抱えていらっしゃる方々です。そのような患者さんに対しても、免疫抑制細胞をコントロールして免疫リスクを改善すれば、ペプチドや樹状細胞を用いた免疫細胞治療の効果により期待が持てます。
 いずれにしても、難治がん・転移がんの集中治療には、がん幹細胞の撃退と共に、今回、ご紹介した免疫抑制細胞の免疫細胞に対する「負の働き」を解除させることが大きなポイントです。
 それらのことを踏まえ、当院では、患者さんの免疫リスクを改善するための工夫を凝らし、ペプチド・樹状細胞を用いた「最先端の免疫細胞治療」が実力通りの奏功を得られるがん治療に取り組んでいます。

■統合医療ビレッジグループは、大阪にもクリニックを開設いたしました。TEL:03–3222–1088

(2013年12月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.11より)

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