シリーズ 先端医療 ―樹状細胞療法― ⑨

難治がん・転移がん向け―免疫力の回復・増強の切り札―
免疫細胞治療はペプチドワクチン・樹状細胞治療の時代に
~体調の悪い方・副作用が気になる患者さんへの福音〜


星野泰三
東京・大阪・京都統合医療ビレッジグループ 理事長・プルミエールクリニック院長

 わが国では、新たにがんを発症する方が年間60万人以上にものぼります。その約半数は、外科的手術・化学療法・放射線治療といったがん3大治療によって完治させています。しかし、それは、がん患者さんの約半数が標準治療で治癒できていないことを意味してもいます。
 がんが根治できるか否かを左右するのは、がんの種類や進行度以外にも、その患者さんの免疫力、とくに樹状細胞の働き具合が大きなポイントになります。では、弱り切っているがん患者さんの免疫状態を回復させ、さらに増強させるにはどうしたらいいのでしょうか?
 今回は「免疫力の強化」に焦点を当て、当院が実施しているペプチドワクチン・樹状細胞治療を解説しながら、この治療法と超特異的リンパ球群連射治療を中心としたプロトコールが進行性がん・転移性がんを打破した症例をご紹介します。

免疫細胞治療の切り札として期待されるペプチドワクチン・樹状細胞

 がん患者さんの免疫状態の回復・増強には、キラーT細胞(腫瘍特異的リンパ球:CTL)やNK(ナチュラルキラー)細胞などの活性が不可欠です。これら免疫細胞の活性には樹状細胞が大きく関わっています。
 樹状細胞とは、木の枝のような突起を持つことにその名前が由来した免疫細胞の仲間です。広く全身に分布し、体内で異質な細胞を捕食することで、その特長(抗原)を認識し、攻撃部隊のリンパ球に情報を伝える役目(抗原提示)を担っています。
 その特徴を生かし、樹状細胞の培養中にペプチドを取り込んで抗原として覚え込ませると、CTLを誘導してがん細胞を選択的に攻撃することが可能になります。
 従来、「免疫力の強化」という点では、NK細胞で直にがんを攻撃する研究がこの領域の主流でしたが、近年は、ペプチドワクチンを入れた樹状細胞による「免疫力の強化」が最新の研究とされています。この〝ペプチドワクチン・樹状細胞〟を用いた治療は、がんを治す、あるいは長期間の延命に繋げるものであることがわかってきており、がん3大治療によって免疫力が低下した際の感染症予防はもちろん、がんを叩くためにも必要とされてきているのです。
 また、一般的に抗がん剤治療には著効期があるものの、開始から約3カ月後には耐性獲得期が心配されます。耐性を獲得してしまった抗がん剤の効果は乏しくなり、やがてほとんど効かなくなってしまいます。それに、元々、抗がん剤の効果が期待できないがん種も存在します。このように抗がん剤が効かなくなった、あるいは効かないケースでも、ペプチドワクチン・樹状細胞を用いた治療に代表される免疫細胞治療は効果が期待できるのです。

適応性の解析がより良い治療効果を得る近道

 がんという病気は免疫に密接した〝免疫病〟です。したがって、当院では患者さんに対し、ご自身の免疫力やがん自体が出すさまざまな免疫抑制因子などを把握するための腫瘍免疫解析を行っています。ペプチドワクチン・樹状細胞をはじめとする免疫細胞治療の力を最大限に引き出して早く効果を出すには、敵であるがんの性質を認識しておくのと同時に、患者さん自身の免疫状態を把握しておくことが得策なのです。
 その解析の主なチェック項目は、抗がん細胞活性(実際にがんを倒す免疫細胞の元気度)、免疫バランス(Th1・Th2、CD4・CD8)、善玉免疫物質(IL–12・IL–7)、悪玉免疫物質(IL–6・TGF–β・PGE2)、がんの血管新生因子(VEGF)です。 これらの状態を知ることで、個々の患者さんに適したCTLの組み合わせを選定することが可能になります。要は、腫瘍免疫解析はペプチドワクチン・樹状細胞の効果を最大限に発揮させ、強力な抗がん効果を得るために必要不可欠な検査だということです。
 こうした医学的な適応性を解析して明確な治療方針を導くことが、より良い治療効果を得るための近道になると確信しています。

強力な攻撃力・接着力を持ち合わせたペプチドワクチン・樹状細胞治療

 樹状細胞はリンパ組織ではリンパ節において免疫応答を起こし、ヘルパーT細胞に情報を与えてCTLを強力に誘導しています。また、肺では肺胞マクロファージと、肝臓ではクッパー細胞とそれぞれ協調して免疫監視作用を発揮し、免疫反応を引き起こさせる抗原を取り込みます。その抗がん力をさらに生かすために、先述のように患者さんから採血し、樹状細胞を培養して「生きたがんワクチン」として働けるだけの能力(がん情報)を組み込み、数を増強します。
 では、体外で培養する際に樹状細胞にどのようながん情報を与えればいいのでしょうか? 従来は、手術当日に切除した新鮮な自己がん組織を処理し、その特徴を多分に含んだ自己がん由来の情報源を埋め込む「自己がん由来のがん抗原」が一般的でした。しかし、昨今は、シャープな情報としてのペプチドワクチンを埋め込む「人工合成のがん抗原」として5~6種類のがんワクチンを樹状細胞の中に埋め込むマルチタイプのペプチドワクチンを用いた方法が主流になっています。そのことで樹状細胞ががんの持つヘテロ性(多様性)にも対応できるようになり、特異的リンパ球であるCTLの強い抗原認識力が最大限に発揮される免疫細胞治療が可能になったのです(図1)。


図1 ペプチドワクチンが、がんを狙い撃つ

 当院では従来の樹状細胞治療に分子標的観点からの工夫を凝らし、研究を重ねました。その結果、樹状細胞を培養する際に、サイトカインや人工抗原、分子情報、免疫賦活剤などを用いて改良・増強し、分子標的薬に近い働きを持たせることに成功したのです。 「生きたがんワクチン」として十分に働けるだけの能力を備えて体内に戻した樹状細胞はがん細胞の持つ特異的な性質を分子レベルでとらえ、それを標的に選択的・効率的にがん細胞だけを狙い撃ちするのです。
こうしてペプチドワクチン・樹状細胞治療は、正常な細胞を傷つけることなく、自分自身の力でがんを攻撃するため、副作用のほとんどない、体にやさしい治療でありながら、攻撃力と接着力を最大限に発揮してがんを叩くというわけです。

ペプチドワクチン・樹状細胞治療で、再発食道がんが縮小、脳転移が消失

 当院におけるペプチドワクチン・樹状細胞治療のプロトコールは、基本的に1~2週間おきに1回ずつ、6回(その半分の3回で、一旦、治療効果の評価を行う)を1クールとしています。その際、患者さんの状態に応じ、この治療法の強力なパートナーであるリンパ球治療、あるいは温熱治療などを併せています。
 当院を受診される患者さんの8割以上が進行性・難治性のがんを抱え、他の病院において余命を宣告されたり、緩和ケアを勧められたりした方々です。そのような患者さんに対してもペプチドワクチン・樹状細胞治療やリンパ球治療といった免疫細胞治療は効果が期待できるのです。
 私たちがペプチドワクチン・樹状細胞治療を適応させているのは、基本的に余命1カ月以上と言われている方です(効き目が乏しいとわかっている絨毛がんを除く)。しかし、余命1週間の宣告を受けた患者さんでも、ペプチドワクチン・樹状細胞治療が奏効し、奇跡の生還を果たしているケースもあります。
 たとえば、食道がんの再発と、6カ所の脳転移が認められたAさん(70歳代・男性)。この方には、70歳を超える高齢、強力な化学放射線治療を受けたにもかかわらず病状が篤くなってしまった、局所再発と頭部の散発的な転移がある、といった点を鑑みたプロトコールを立てました。並行し、栄養点滴によって栄養状態と貧血の改善に注力しました。そのうえで、3カ月にわたり週に1~2回のペースでペプチドワクチン・樹状細胞治療を続けたのです。その結果、食道の局所再発は内視鏡検査上では大幅に縮小し、脳転移はMRI上では消失していました(写真1)。

超特異的リンパ球群連射治療で、肝転移が消失・副作用が解消

 当院では、患者さんの病状に応じ、混合型リンパ球治療・特殊型リンパ球治療・超高密度NK細胞治療・超特異的リンパ球群連射治療の4つのリンパ球治療を使い分けています。このなかで、比較的、先述のペプチドワクチン・樹状細胞治療との併用が多いのは、超特異的リンパ球群連射治療です。この最新のリンパ球治療は、威力があるのはもちろんのことスピード性にも長けています。 ですから、時間的猶予が許されないケースにおいて、その特性を発揮します。
超特異的リンパ球は、培養した樹状細胞の中に5種類以上のがんワクチンによって刺激を与え、自己リンパ球からCTLを誘導します。さらに活性化NK細胞も加えることで、腫瘍抗原を提示していないがん細胞に対しても抗がん効果を発揮できるようにプログラムされているのです。
 四面楚歌の状況で起死回生の超特異的リンパ球群連射治療が著効した患者さんのなかにBさん(60歳代・男性)がいらっしゃいます。Bさんは、大腸がんの手術後、FOLFOXとアバスチンを3カ月間、さらにFOLFIRI(5–FUの急速静注+持続投与にレボホリナートとカンプトまたはトポテシンを加えた多剤併用療法)とアバスチンを3カ月間にわたって併用し、がんの増殖を抑制できていたそうです。つまり、6カ月間、がんとの共生に成功したのです。とはいえ、手足の痺れや足の違和感などの抗がん剤の副作用が現れ、発病前のように職場に休むことなく出勤することはできなくなっていました。
 そのような状況から2年ほどが過ぎた頃、黄疸が現れたり、胃が圧迫されて食事がうまく摂れなくなってしまいました。肝臓にがんが転移したのです。しかも、抗がん剤の副作用による症状も残っていますし、転移巣は増殖していました。こうした状態で当院を受診されたのです。
 当院では、半年ほど超特異的リンパ球群連射治療を行いました。その結果、腫瘍は消え、しかも手足の痺れ・足の違和感も解消されたのです(写真2参照)。

 超特異的リンパ球群連射治療を最強の〝パートナー〟とするペプチドワクチン・樹状細胞で難治性がんに挑む
先述のAさんに行ったペプチドワクチン・樹状細胞治療は、がんができているそばの皮下組織に注射する局所型治療です。対して、Bさんに行った超特異的リンパ球群連射治療は、がんを一網打尽にする全身型治療です。当院では、この2つの治療法を併用する機会が多々あります。
 というのも、この2つの治療法はとても相性がよく、その相互増幅は「活性化のドミノウェーブ」を生み、免疫的抗がん力を雪だるま式に強くするからです。したがって、ペプチドワクチン・樹状細胞と超特異的リンパ球を患者さんの体内に戻す回数を重ねるごとに、体内でその威力が増していくのです。
 治癒が困難とされる進行性がん・転移性がんを抱えた患者さんでも、苦痛なく挑戦できる治療法として、今回ご紹介したペプチドワクチン・分子標的樹状細胞治療は、今、多くの患者さんに支持されています。さらに、この治療は副作用がほとんどなく、毎日服用する必要もありません。ですから、体調が優れない、副作用が気になる患者さんに適した、強力で体にやさしい治療法だと言うことができます。
 私たちはペプチドワクチン・樹状細胞などを駆使し、これからも難治性がんの治療に挑戦し続けていきたいと考えています。

(2013年4月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.9より)

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