シリーズ 先端医療 ―樹状細胞療法― ③

=余命6カ月でも効果が2倍=
難治がん・転移がんには急速加熱と熱ショック蛋白(HSP)療法
―元気になりながら病気も回復する驚異的効果


星野泰三
東京・京都統合医療ビレッジグループ理事長 プルミエールクリニック院長

 熱ショック蛋白(Heat Shock Protein 以下=HSP)とは、熱などのストレス条件下にさらされた細胞に対し、発現を上昇させて保護するタンパク質の一群を言います。また、HSPは体を守るだけでなく、しっかりとした抗がん作用も持ち合わせた、今、もっとも注目されるがん治療の1つでもあります。
 当院では、このHSP療法を導入して以来、驚くべきことに治療成績が約2倍も向上しました。今回は、このHSP療法をご紹介します。

熱ショックで免疫力を上げる

 人間の体温が1℃上昇すると、その免疫活性は約30%上がります。また、体温が1℃上昇するごとにHSPは約25%増えて、抗がん免疫力も13~14%アップすると言われています。
 HSPは分子シャペロン(他のタンパク質分子の働きを助けるタンパク質の総称)として機能し、微生物から動物・人間まで幅広い生命体が持ち合わせている、ストレスから体を守る重要なタンパク質です。一般的に、HSPは炎症や細菌感染、活性酸素、低酸素状態といったさまざまなストレスによって誘導されます。要は、HSPの働きが、人間の体の基本となるタンパク質や、遺伝子の安定化に大きく寄与するのです。
 また、HSPは、ダメージを受けて異常な状態になった細胞、あるいは破壊された細胞を修復する作用を持っています。その際、細胞の修復ができなければ、酵素複合体としてそれを外部に排出してくれます。つまり、細胞の修復あるいはそれができない場合は排除する働きを持ったHSPは、がん予防としても役立つ大切な物質なのです。
 ただし、がん細胞と正常細胞の中のHSPの現れ方や性質は異なっています。HSPをがん治療に応用する場合は、その違いを十分に考慮したうえで治療することが大切なのです。
 HSPは、抗がん剤や放射線による治療を受ける際、正常細胞を保護してくれます。したがって、抗がん剤治療の前、あるいは放射線療法と同時に、HSPを豊富に誘導する高速温熱リンパ球療法(リンパ球療法によって増強・活性されたリンパ球が、高速温熱流に乗って体の隅々まで行きわたるようにした治療法)や、改良型スパークシャワー療法(正常細胞よりも電気抵抗が大きいがん細胞の特徴を利用し、病巣に電磁波を流してがんを攻撃する治療法)を行うと、HSPをがん周囲に誘導し、その副作用が出にくかったり、免疫力の低下を防いだりすることが可能なのです(図1)。


図1 HSP誘導

苦痛なくオーダーメイドで治療できる

 HSPには、腫瘍免疫、つまりがんを治すための免疫力という、きわめて重要な作用があります。それは、単に免疫力をアップさせる働きだけに留まらず、がんの情報を免疫細胞に伝えるという役割がある点です。
 この作用の仕組みは、まず、がん細胞の内部から「がん抗原」という情報がHSP70によって捉えられることから始まります。次に、そのがん情報はgp96というHSPによって運び出されて「MHCclass 1」という細胞表面のがん抗原を出す器の中に陳列されます。そして、それを見た免疫細胞、とりわけキラーT細胞が攻撃をするというものです。平たく言えば、HSPには腫瘍細胞の表面におけるMHCclass 1分子の抗原提示を促進させる役割があるのです。逆に言えば、がん細胞に対して免疫細胞療法の効果がない場合は、MHCclass 1提示がされにくい状態にあるということです。つまり、免疫細胞に対し、自分の姿を隠すためにがん細胞が被っている覆面を剥がす作用を持ち合わせているのがHSPというわけなのです。
 その点において、当院では免疫細胞療法を受けるがん患者さんに対して改良型のニュースパークシャワー治療を駆使し、がん細胞にHSPをつくらせるということも行っています。と同時に、リンパ球や樹状細胞の内部でも、HSPをつくらせるのです。ただし、がん細胞の中でHSPをつくらせることと、免疫細胞の中でHSPをつくらせることは意味が異なります。がん細胞の中でHSPをつくらせるのは、前述のように免疫細胞が攻撃しやすいようにがんの情報を認識しやすくさせるためです。それに対し、リンパ球や樹状細胞の中でHSPをつくらせるのは、これら免疫細胞の活性を長持ちさせるためなのです。
 活性化リンパ球の活性度のピークは約2週間、活性化樹状細胞のそれは約1カ月と言われています。そこで、その中にHSPをつくらせることで、さらにリンパ球や樹状細胞に活力を与えるのみならず、長時間にわたりがんを攻撃させる効果もあるというわけです。こうしたHSPを出すためには、時間をかけて加温するのではなく、急速加温をしなければいけません。加熱時間が短いほど、良質なHSPがつくられるからです。
 そこで、当院では、HSPを高産生させるために改良型EH波温熱療法で予備加熱をすることで、腫瘍局所が39~40℃くらいになるまで加熱しておき、ニュースパークシャワー療法によって一気に42~46℃まで加温していく方法をとっています。ちなみに、ピンポイント(狭い範囲や深い部位など)に腫瘍を叩く必要がある場合は、パルスターゲット(間歇型標的温熱療法)を行っています。
 いずれにしても、これらのHSP療法は、苦痛を伴うものではなく、患者さん個々の体力や免疫状態、腫瘍の大きさなどを鑑みながら、すべてオーダーメイドでの治療を行える利点があるのです。

HSPでがんを消す

 がんを消すためには、通常の免疫力を改善する以外に、樹状細胞の免疫改善とToll-like receptor(以下=TLR)という受容体が重要です。リンパ球や樹状細胞のTLRにシグナルが来なければ、がんを殺すための十分な免疫力が得られないからです。
 デンジャーシグナル(危険信号)と呼ばれているTLRは、そこにシグナルが来ると対象となる敵を排除する起爆剤としての作用を持ち合わせています。さらに、TLRは、セントラルメモリーTセル(免疫細胞療法の中心となる細胞)にも信号を送る作用や、がんを攻撃するに至るまでの樹状細胞の成熟化にも寄与していると言われています。ところが、そこが免疫細胞療法の最大の問題点で、がん患者さんはリンパ球や樹状細胞におけるTLRがブロックされている状態になっているのです。その要因として、HSP70の減少が関与していると考えられています。そのような状態のがん患者さんに対し、当院では、前述のニュースパークシャワー療法やパルスターゲットといったHSP療法を行うことで、そのTLR機能を回復させてデンジャーシグナルとして機能させ、がんを排除する免疫のスイッチをオンにすることを可能にしているのです。当院では、HSP療法を用いた免疫細胞療法を行うことで、がんに対する治療成績が大幅に改善されました。HSP療法によって、がん細胞の表面にMHCclass 1という目印をきちんと提示させたことも、治療方法を進歩させた大きな要因です。
 また、ニュースパークシャワー療法やパルスターゲットといったHSP療法によってTLRの機能を回復させると同時に、超特異的リンパ球群連射療法(スピード性と威力を兼ね備えたリンパ球療法)や、活性化樹状細胞療法(ニュースパークシャワーリンパ球療法を駆使して樹状細胞に刺激を与えることでそこからサイトカインが出て、その活動がより活発化される治療法)の開発も、当院の治療成績の改善に大きく貢献したと言えるでしょう。

HSP急速加熱で免疫細胞治療の効果が2倍に ‼

 2002年に当院が開院して以来、約10年が経ちました。その期間を前期・中期・後期と3分割して、患者さんの2年生存率を比較すると、前期が34・8%、中期が54・9%、後期が66・7%と、当初から約2倍も治療成績が改善されています(図2)。


図2 プルミエールクリニック10年の治療実績

 前期の免疫細胞療法の中心は高速温熱リンパ球療法、中期はスパークシャワーリンパ球療法でした。そして、後期は、HSP高含有型活性化樹状細胞を入れるとともにHSPを急速加熱で増やす改良型ニュースパークシャワーリンパ球療法をがん治療の主軸の1つに据えてきました。また、前期から中期、中期から後期へと進むにしたがって免疫細胞療法と併用するHSP療法の技術の進歩も生存率の向上に寄与していると考えています。
 当院を受診する患者さんの大部分は、大学病院やがん専門病院などで、抗がん剤や放射線による治療をやり尽くし、標準治療の領域における治療手段を失った方々です。さらに、患者さんの約80%は、主治医から余命6カ月以内の宣告を受けています。そのような状況のなかで、現在の66・7%の2年生存率は、決して悪い結果ではないと思います。
 また、前述のように、HSPの表出度合いの改善によるTLRやセントラルメモリーTセルの作用が、治療成績の改善にきわめて大きな役割を果たしたのは間違いないでしょう。とりわけ、TLRを多く出すことが可能な優れた原材料として挙げられるのが、HSP高含有型活性化樹状細胞と超特異的リンパ球です。それに加えて、急速加熱するニュースパークシャワーリンパ球療法によってHSPが表出し、TLRがしっかりと誘導されたことが、これだけの治療効果の改善に関わっていると考えられます。
 免疫細胞療法において、活性化樹状細胞がその歯車と考えるのならば、HSPはその推進力を上げる補助ロケットに例えられます。免疫細胞療法の歯車とその補助ロケットが噛み合ったからこそ、これだけの治療成績が得られるようになったと確信しています。

独自の工夫でしっかりした効果

 これまで述べたとおり、免疫細胞療法においてHSPが免疫力アップに寄与することは明確になっています。ただし、HSPについて注意が必要な点があります。先述のがん細胞において、HSP70の発現はMHCclass 1の提示を促進するので、良いことなのですが、同時に出てくるHSP90はがん自体の防御と捉えられている面もあるのです。
 がん細胞においては、コシャペロンという物質とHSP90が複合体を形成し、ATPaseという酵素活性(酵素タンパク質が示す特定反応に対する解媒機能)を増しています。したがって、がんの中で、HSP70は免疫治療において大歓迎ですが、HSP90には気を付けなければいけません。
 たとえば、体の栄養源となる肉や野菜でも灰汁という摂取しないことが得策であるものがあります。がん治療においても、きちんと〝灰汁抜き〟を行わなければ、思ったような効果が得られないばかりか、治療に悪影響を及ぼすこともあり得るのです。
 そんななか、当院では独自の工夫を凝らし、がん細胞内でのコシャペロンを切断することに努めています。その1つが超音波治療による切断であり、もう1つがキラーTリンパ球や活性化樹状細胞によるインターフェロン誘導での切断です。こうしてコシャペロンを切断し、HSP90のがんにおける賦活化を行っているのです。
 今回、ご紹介したHSP療法は、単独ではなく、がんと免疫の理論を熟知したうえで、免疫細胞療法や超音波治療などとの集学的方法で行うべきだと考えています。

(2011年7月20日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.2より)

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